※少年野球「晴耕雨読」からかなり久しぶりに転載なんである。
宮前区新人戦の決勝は、有馬フレンズVS富士見台ウルフ少年野球クラブなんであった。
決勝戦では互いのチームから「ウグイス嬢」ならぬウグイス母嬢が、選手の紹介と試合途中の選手交代のアナウンスを担当。フレンズからは母マネージャーのOhmori母が。試合前から何度も練習をし、ビビリながらも結構楽しんでいたようだった。
その試合前の選手紹介では子ども一人ひとりが大声で挨拶。フレンズは判で押したように「がんばりま〜す」であったが、ウルフは「優勝目指して頑張ります」「絶対勝つように頑張ります」とか気転を利かしたオリジナルの挨拶。さすがは決勝戦慣れしている。もし筆者なら「野球を頑張って甲子園へ行って、将来は鮨職人になりたいで〜す」とでも言いたくなった。
最初これはシャッターチャンスと思い、カメラ片手にグランドへ飛び出したのだが、Fマークの帽子を被っていたことに気づき、速攻で連盟広報部の白い帽子に変えてレンズを向けたんであった。連盟の帽子は筆者にとっては水戸黄門の印籠と同義語なんである。
プレイボール!
1回表F裏W
互いに無得点。眠れる大砲Hajimeが四球を選び出塁、結果相手失策により先制点を挙げることに成功した。実はこの対戦カードはかつてオレンジボールでも決勝を戦った世代なんである。フレンズにとってはゴールデンエイジなのだった。それだけに1点とはいえギャラリーも欣喜雀躍なのだった。
マウンドはあの時と同じ主将のRui。マスクをかぶるのはYui。準決勝と同じスタメンで臨んだ。
3回表F
ラストバッターの小さな巨人Kyousukeが2-2からの5球目を引っぱりレフト前へ初ヒット。1番Ruiが犠打で送り2番Kohkiがショートグラブをかすめて抜けるタイムリーヒットで2得点目。スコアは最初はエラーにつけたが筆者のテンションも上がってご祝儀で安打に変えた。あの王者ウルフを無得点に抑えたまま更に追加点なんであった。ボルテージが上がらないわけがない。
神奈川県、川崎市、宮前区と少年野球のルールは毎年上意下達(じょういかたつ)のお達しがある。学童野球においては、1日に同じ選手が投球を行って良いとされるのは7回まで。つまりダブルヘッダーの場合、エースピッチャーは1試合目を4イニングくらいで切り上げ、次の2試合目で残りの3イニングに賭けることになる。試合内容や得点差にもよるが大事な試合になると、このあたりの計算も重要になってくる。FのRuiは準決勝ですでに3イニング投げているから、決勝では4回までだ。
またたった一球投げて交代してもその投手は1イニングをカウントされる。更に特別延長の場合は9イニングまで可能になるのだが、これには更に条件付きの複雑なルールがあってここで一朝一夕には語れないんである。連盟のNishimuraさんから取材したのだった。
4,5回W
対するウルフ。準決勝対ヤング戦での投手リレーもあってか、やはりピッチャーを変えてきた。先発Saitohくんから2回には早々とShimadaくん、更に3回にもOgasawaraくんにスイッチ。猫の目のようにくるくる投手交代。老獪かつ勝負を知り尽くした名将Ogasawara監督のフレンズを翻弄する作戦か。実にスコアラー泣かせなんである。
Wは初回から4回までゼロ行進の無得点。5回Ruiからマウンドを受け継いだ2番手Kyohから内野安打をもぎ取るも、やはりウルフ打線は沈黙を守ったままであった。
6回表F
初回に投げた先発のSaitohくんがまたマウンドに上る。Fは先頭Ruiがレフト前安打を飛ばすが後続を断ち切られる。新チーム監督のSatohとWのOgasawaraさんとの熾烈な心理戦でもある。スクイズを見事にはずされたこともあったが、互いのベンチのサインの読み合いでもある。フレンズの大砲1号2号のバットからこのゲームでは快音が聞かれることはなかった。
6回裏W攻撃
線の細いFのKyohは実に良く投げた。しかしここでウルフ打線に捕まった。Ogasawaraくんの二遊間を抜ける安打、Saitohくんの内野安打、4番Shirotaniくんのタイムリーで待望の1点を返すと、更に二死後Kimuraくんの中堅前適時打で同点に追いつく。
一気に盛り上がるウルフベンチと応援父母たち。点に飢えた狼軍団が牙をむき出した。
6回裏F守備
同時にこちらの目線はフレンズ守備である。
ちょうどファウルゾーンとフェアグランドの中間に、更にYui、Kyohの投本間にフライが上がった。両者猛ダッシュする。今迄のフレンズならどちらかがお見合いをし、ポテンとなるのだったが、この日は違った。執念でボールを追った二人はファウルグランドで激突したんであった。うずくまり起き上がれぬKyoh。サッカーならアディショナルタイムを取るくらい治療に時間がかかった。
ようやくマウンドに戻った彼に第一公園ドームの観客から割れんばかりの拍手。
7回表F
2:2の同点で迎えた最終回。筆者の脳裏にはもしやあの特別ルールもあり得るのではないかとの想像が駆け巡る。
Taichi四球、Shohgoの右前安打で走者が二人塁に溜まった。
普段はおとなしい怪我をしたKyohが打席に。思い切って初球を叩いた打球は右中間を超えて外野を転々と転がる。湧きに湧くベンチと応援ギャラリー。筆者も珍しく興奮気味でベンチの後ろをほとんど振り返らなかったが、いつの間にか大変な観客が成り行きを見守っていたらしい。あとで聞いた話だが球場の8割がフレンズを応援していたそうだ。野球に集中していて全く知らなかった。
苦しい中で最終回4:2と勝ち越したフレンズ。あとは裏を守りきるだけだ。
7回裏W
筆者は一瞬これで勝ったと思ったほどだった。試合後の談笑になるがOgasawara監督もこの時「負けた」と思ったそうだ。
しかし、百戦錬磨、僅差での勝利を真骨頂とするウルフはここからがドラマのラストシーンなんであった。まるで逆転劇を演出するために2点ビハインドに甘んじたかのように。
9番の先頭打者を四球で歩かせてしまった。筆者は思った。
....まずい。
下手すると4番までまわってしまうではないか。4番Shirotani君は前打席でヒットを放っており、鋭いバットスィングが脳裏に焼き付いている。終わってみるまで勝敗は分らないのがウルフ戦なんである。このパターンで十数年何度も苦汁を飲まされてきた。
これが杞憂に終わらなかったんである。
1番Wadaくんもデッドボールで1,2塁とし、続いてダブルスチール、WPで1得点1点差にまでなった。更に2番Ogasawaraくんの起死回生のタイムリーでSaitohくんが生還し同点。
緊迫するベンチ。筆者は試合の行方を見るためにスコアブックを投げ出したくなった。
4番Shirotaniくんまで回ってしまった。監督Satohはここで豪腕Hajimeにスイッチ。
1-3から好球必打。思い切り振り切った打球はセンターへの浅めのライナー性フライ。
センターTaichiが捕球と同時に、3塁走者Ogasawaraくんはタッチアップ、3塁ベースを蹴り果敢に離塁スタート。
バックホーム送球は逸れたものの、捕球した捕手Yuiと走者が交錯し.....。
「セーフ!」
劇的なフレンズのサヨナラ負けであった。
私は12年ぶりの宮前公式戦優勝を夢見ていた。しばらく言葉を失った。
一瞬にして悲鳴と歓声がこだまする。
子どもたちの中には何人も泣く子もいた。
母たちも相当数泣いていた。
観戦していた他チームの母ももらい泣きしていたそうだ。
周りの関係者からも、素晴らしい試合を見せてもらったと肩をたたかれた。
この涙は悲しいからではない。
悔し涙を通り越し、感動の涙であったろうと思う。
一生懸命にプレーした子らの姿に理由もなくこみ上げてくる熱い思いがあったのだろう。
時間が経つにつれ、涙はいつしか静かな歓喜に変わる。
決勝まで行った経験と実績は君たちを大きく成長させるだろう。
絶対王者相手に破れたとはいえ、準優勝という快挙を成し遂げたのだから。
冷たい涙の河を渡れ。
そこにそびえる厳しい冬山を越えろ。
その向こうには春の陽光に満ちたフィールドが君たちを待っている。
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