先日「甲子園の魔物」についてここで書いた。反面「天使の微笑み」の存在もあることも。今日のブログは我がチームに天使がパタパタ舞い降りて来たお話なんである。
年間50試合前後やっていると相手チームのとんでもない子ども、いや選手に出くわすことがある。そのほとんどが大柄で主将で4番でエースなんてえのが常。オロナミンCのCMに出て来る巨人軍選手のような。今日のドジャース杯初戦の相手にもいた。井田みすぎ子ども会のI君である。エースで4番、そのピッチングフォームはほぼ文句のつけようがない。スピード・コントロール共に中学生クラス。試合前の様子やシートノックを観察すれば、自チームと比較して戦力の優劣がおおよそつかめるというもの。打撃力は未知数でも守備を見ればその輪郭くらいは掴める。守備が下手でも打撃は抜群なんていうチームはまずあり得ない。逆に言えば個々の守備がしっかりしていれば、打力もそれなりのものを持っていると想像出来るわけで。スコアラーとしての今日の予感は「うちと五分五分かまたは、うちが僅かに上か?勝つには相手投手を少ないチャンスでクリンナップが打てるかどうか」というもの。相手には失礼だけれど、バッテリーの存在が大きいチームという印象だった。
会場の西有馬小学校ドームには台風の余韻が残るどんよりした雲の流れ。ドームなのに空模様は関係ないじゃん、というツッコミはこの際毅然と無視しちゃう。
1回表井田Mの攻撃=Otoのピッチングはまずまず。1奪三振を含み三者凡退。
1回裏有馬Fの攻撃=3番Nabeが死球で出塁するもやはりスピードについていけずうちも凡退を喫す。
2回表井田M=先頭打者、4番でエースのI君が右打席に立つ。威風堂々、構えにも隙がない。好きなだけ引っ張るタイプなのだろうとの予測から、思わずFのレフト守備位置を確認する間もなく、1ボール1ストライクからの3球目。快音を残して白球は暗雲を一直線に切り裂き、5万の大観衆の待つ2階席うしろのオロナミンCの看板直撃弾の大飛球。文句なしのホームランである。せめてソロで良かったと胸をなでおろす。1:0先制された。
2回裏有馬F=5番Otoが内野安打で出塁。続く6番Hiromiの四球、盗塁、三振、Koutaのスクイズバントが決まり1:1の同点に追いつく。Hiromiは三本間に挟まれタッチアウトでチェンジ。
4回裏F=3番Nabeが2打席連続死球で出塁、盗塁×2で1アウト3塁。ファーストゴロで一塁を踏む間にNabeが本塁を突き逆転に成功。1:2とする。
これは中々いい試合になってきた。緊迫感漂うベンチの空気の中でスコアラーを務めるのは快感なんである。クールに戦況を見ながら、また子どもらの表情を観察しながら助言をしたり、檄を飛ばしたり...。
ピリピリした空気の中でグランドの視野の片隅にHiromiのママがのしのしやって来たのを確認。そうかHiromiの母は今日はお茶当番だったはず。ベンチの後ろの母軍団の中に納まり、一層の賑やかさを増す。
5回表井田M=このところのOtoの悪いクセが再発、極端なサイドスローによる制球難病が出て来た。四死球が遠因で2点を入れられノーヒットで逆転に甘んじる。スコアは3:2。ベンチの空気は再度霧に包まれる。そんな時...。
ベンチにいると後ろの声が全く耳に入らない時と、逆にスコ〜ンと聞こえる時とがある。愛すべきキャラのOnoママ、Hiromiの母の声が聞こえてきた...。
「アタシさあ〜、今朝久々にスズメを見ちゃってさ〜...」
確かに最近あんまりスズメを見かけることがなくなったなあ〜、なんて思いつつも、おっといけねえ試合はどんどん進む。
5回裏F=3:2のビハインドからなんとか相手エラーでもぎ取った1点が入り、3:3の同点に持ち込む。5回終了時点で時計を確認(フランクミュラーではない)。次の表裏で時間切れなはず。相手打線は6番からの下位打線。その裏うちはクリンナップ3番からだ。勝機はFにあり。
6回表井田M=Otoが踏ん張りなんとか4人で無失点でチェンジ。3:3同点のまま最終回裏のFの攻撃へ...。
6回裏F=ここまで内野安打1本に抑え込まれていたFの主将先頭打者Nabeのバットが火を噴いた。鮮やかなセンターオーバーの二塁打で無死2塁。暴投で3塁進塁を果たす。続く4番Taguchiは投前ゴロ。Nabeは性格的な果敢さが裏目に出て、また前回の得点スタイルの成功が頭にあったのか本塁へ突進。冷静に判断した投手I君は迷わず一塁ではなく本塁へ送球、捕手によりタッチアウト!あああ〜サヨナラのチャンスだったのに...。続くOtoはファーストゴロで二死走者3塁.....。3:3の同点の場面。
魔物はNabeの走塁に目覚めたようだった。魔物はNabeに一瞬だけ三塁スタートを早めたけれども、おそらく魔物も昨晩飲み過ぎたのだろう、すぐに興味をなくしどこかへ消えた。替わりにパタパタと舞い降りてきたのが暢気な天使である。同点で迎えた最終回ツーアウト3塁で普段おとなしい目立たないHiromiに天使がニンマリ微笑んだのである。三遊間を鋭く抜けるクリーンヒット!!逆転サヨナラゲームであった。
私はスコアブックを片手に万歳のジャンプ。すぐに後ろのHiromi母と握手。一瞬思いっきりハグしようかと思ったけれど、筆者、彼女に抱きしめ返されたら腰痛が悪化することが頭をよぎりやむなく断念。
3年生から入部の彼。今年一年でぐんと伸びた、最終学年のHiromi。
彼が一塁手になりどれだけ内野手の悪送球をすくいあげて走者アウトにし、チームを陰で支えたかしれない。もちろんその逆もあった。捕れる球もとれずなんて。でもこんな普段目立たない子が6年最後に劇的なヒーローになってくれたことが何よりも嬉しい。誰がなんと言おうともだ。
筆者がコーチとしてスコアラーとして、少年野球にかかわっている大きな理由のひとつは、こんな子の一瞬の笑顔を見たいからに他ならない。
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